本センターの研究員である瀬川太雄(現在,日本大学生物資源学部)と教授である吉岡基らによる共著論文が,学術誌 Diseases of Aquatic Organisms に掲載されました!

 

 Helicobacter delphinicola sp. nov., isolated from common bottlenose dolphins Tursiops truncatus with gastric diseases. 

「胃疾患を持つバンドウイルカから分離された新種 Helicobacter delphinicola sp.

  

 胃疾患,それは多くのイルカが抱える病気のひとつです.しかし現状では,その主な原因すら解明されておらず,原因不明のままでは適切な治療方法など分かるはずもありません.そこで,イルカの胃疾患原因を追求するための共同研究が本センターと名古屋港水族館とで始まりました.

 ヒトの胃疾患の原因で有名なピロリ菌に代表されるHelicobacter属細菌(ヘリコバクター属細菌)には,様々な動物の消化器疾患に関与する種が存在します.これまでバンドウイルカをはじめとした多くの鯨類からピロリ菌と近縁なHelicobacter cetorum(以下HC)が見つかったという報告がありますが,HCとイルカの胃疾患との関連性については明らかにされていませんでした. 

  

 そこでこの研究では,HCがイルカの胃疾患の原因であるならば,重度胃疾患症状を示すイルカの胃からHCが高率に見つかるであろうという仮説を立て,調査を行いました.すると予想外にも,HCとは明らかに異なるヘリコバクター属細菌が高率に見つかりました.詳細な調査を行った結果,それは新種のヘリコバクター属細菌であることが判明し,この細菌をイルカのヘリコバクターという意味を込めて Helicobacter delphinicola(以下HD)と命名しました(写真;走査電子顕微鏡で撮影したHD). 

 

高率に見つかった新種のHD,そして予想外に低率であったHCですが,これらのどちらがイルカの胃疾患原因になり得るのか調べるため,HCおよびHD哺乳類培養細胞を傷害する物質を産生するかを調べました.その結果,両者ともに哺乳類細胞を障害する毒素を産生することが明らかになりました.つまり,これまで未解明であったイルカの胃疾患の原因に,HCおよびHDがなり得ることが分かりました.

確実な原因究明のためにはさらなる検証が必要ですが,今回の結果は胃疾患を持つイルカの適切な治療法や感染予防ための飼育方法等の確立に大きく寄与することが期待されます. 

 

論文:Segawa, T., Ohno, Y., Tsuchida, S., Ushida, K. and Yoshioka, M., 2020. Helicobacter delphinicola sp. nov., isolated from common bottlenose dolphins Tursiops truncates with gastric diseases. Diseases of Aquatic Organisms, 141: 157-169.