本センターの教授である吉岡基,准教授である淀太我,助教である船坂徳子が大学院博士後期課程の学生として指導した,古山歩らによる共著論文が,学術誌 Rapid Communications in Mass Spectrometryに掲載されました!

 

   Development of an analytical method to exclude the effect of decomposition on carbon and nitrogen stable isotope ratios using muscle samples collected from stranded narrow-ridged finless porpoise (Neophocaena asiaeorientalis)

 「漂着スナメリの筋肉組織を用いた炭素・窒素安定同位体比分析における腐敗

  影響排除のための解析手法の開発」

 

 鯨類の食性を調べるための研究手法の一つに炭素・窒素安定同位体比分析というものがあります.これは組織中に含まれる炭素や窒素の同位体の比率を基に,どのような生物をどれくらい食べているのか推定することができる手法です.

 

安定同対比分析は,世界各地でさまざまな鯨類を対象に行われています.しかし,鯨類の安定同位体比分析では,以前より懸念されている問題点がありました.それは,分析に用いる組織が腐っていることがある,ということです.安定同位体比を分析するための試料は混獲や漂着した死体などから採取されます.特に漂着した鯨類は,死後数日から数ヶ月経ってから発見されることもあり,研究のために調査・解剖できる頃には腐敗が過度に進んでいることもよくあります.筋肉などの腐敗が進むと安定同位体比が変化することは既に報告されてきましたが,具体的に腐敗の問題をどのように解決すればよいのかはわかっていませんでした.そこで私たちは,組織中の炭素・窒素含有率の変化を腐敗の指標とすることで,その影響を取り除いた安定同位体比解析を行う手法を開発しました.

 

三重県が面する伊勢湾にはスナメリという小型の鯨類が生息しており,死体の漂着が頻繁にみられます.私たちは,そうした死体から筋肉を採取し,組織中の炭素および窒素同位体比と,それらの元素の含有率を分析しました.比較的新鮮な死体が多い混獲個体と,腐敗の度合いが様々な漂着個体で,炭素と窒素の含有率を比較してみると,漂着個体の方が炭素・窒素含有率が全体的に低めであることがわかり,漂着個体の筋肉は腐敗によって炭素・窒素が少なくなっていることが確認できました.さらに,漂着個体において,炭素・窒素安定同位体比と含有率の関係を解析した結果,炭素・窒素の含有率が低下すると安定同位体比も共に変化することがわかりました.以上の結果から,腐敗の影響に左右されずに漂着個体の安定同位体比を解析するためには,元素含有率が低下していない試料を選んで解析に用いたり,元素含有率の低下も考慮した統計解析を行う必要があることがわかりました.

 

写真:混獲された比較的新鮮なスナメリ(上)と漂着して腐敗が進んだスナメリ(下)

 

論文:Furuyama, A., Yodo, T., Funasaka, N., Wakabayashi, I., Oike, T. and Yoshioka, M., 2020. Development of an analytical method to exclude the effect of decomposition on carbon and nitrogen stable isotope ratios using muscle samples collected from stranded narrow‐ridged finless porpoise (Neophocaena asiaeorientalis). Rapid Communications in Mass Spectrometry, 34(18): e8857.