本センターの研究員である山本知里による論文が,学術誌 Journal of Ethology に掲載されました!

 

    Flipper rubbing reciprocity and partner choice in common bottlenose dolphins

 「ハンドウイルカが行うラビングにおける互恵性とパートナー選択」

 

ヒトなどいくつかの動物では,周りの個体を助けるなど,他個体に利益を与える行動(向社会行動)が見られます.しかし,一方的に他個体に利益を与えるだけでは,不当に利益を得る個体(フリーライダー)に搾取されるため,向社会行動は維持されないと考えられています.向社会行動を行った個体は,別の機会に向社会行動をしてもらう(互恵性)など,何らかの見返りを得ていると予想されます.しかし,この向社会行動について調べられている種は限られています.

 

ハンドウイルカは胸びれで他個体を触り,胸びれや体を動かすことで接触部位を擦る「ラビング」という親和行動を行います(写真).ラビングは擦る側の個体(ラバー)よりも,擦られる側の個体(ラビー)が利益を得るとされる向社会行動のひとつです.下関市立しものせき水族館「海響館」(山口県下関市)で飼育されているハンドウイルカを対象に行動観察を行い,個体同士がラビングを互恵的に行っているのかを調べました.

 

その結果,ハンドウイルカは,よくラビングをしてあげる相手から,よくラビングをしてもらっていることがわかりました.これは,本種が互恵的にラビングを行っていることを示唆します.各ペアの個体がラバーになる頻度は,短期間よりも長期間の方が同程度になっていました.また,頻繁にラビングを行うペアほど,互恵的にラビングを行っていました.

 

本研究から,ハンドウイルカは,よくラビングをする相手と長期的に互恵性を保つことで,向社会行動であるラビングを維持しているとことが示唆されました.しかし,フリーライダーへの対処など,本種が行う向社会行動についての謎はまだ多く残っています.今後さらに研究を進め,ハンドウイルカによる向社会行動の特徴を明らかにしたいと考えています.

 

写真撮影場所:下関市立しものせき水族館「海響館」

 

論文Yamamoto, C. and Ishibashi, T., 2021. Flipper rubbing reciprocity and partner choice in common bottlenose dolphins. Journal of Ethology, 40: 49-59.