本センターの技術補佐員である神田育子,教授である吉岡基,助教である船坂徳子による共著論文が,学術誌 三重大学大学院生物資源学研究科紀要に掲載されました!

 

 伊勢湾西岸における20112020年のスナメリのストランディングに関する記録

  (Stranding records of the narrow-ridged finless porpoise in the west 

      coast of Ise Bay during 2011-2020

 

伊勢湾・三河湾には,約3700頭のスナメリが生息しているといわれており,海岸に死んでしまったスナメリが打ちあがることや,生きていても河川や港などに迷い込んでしまうことがあります.このように鯨類が漂着したり迷入したりする現象を「ストランディング」と呼びます.

 

この研究では,大学や研究機関,博物館,水族館,行政など15の団体が所属する「伊勢湾・三河湾ストランディングネットワーク」が収集したスナメリのストランディングの記録のうち,伊勢湾西岸(三重県沿岸)における最近10年間の傾向を調べました.

 

10年間でデータが収集されたスナメリのストランディング個体の数は合計486頭でしたが,情報収集体制が整ってきた2016年以降では,1年あたりの数は60頭前後で安定していました.月別にみるとストランディングは56月に集中しており,その大半は生まれたばかりの赤ちゃんと考えられる小さな個体でした.このことから,スナメリがこの時期に伊勢湾で盛んに出産し,子育てをしていることがわかりました.発見される場所は湾奥部の桑名市から湾口部の志摩市まで広がり,それはスナメリの分布域をほぼ反映する範囲でした.また,季節によって発見の多い場所にちがいがありましたが,それは季節風や潮流が影響しているからではないかと考えられました.

 

今後,関係機関がより連携しあうことで調査範囲を伊勢湾・三河湾全域に拡大し,ストランディングの発見頭数や発見場所などの傾向に大きな変化がないかを継続的にモニタリングしていくことが,スナメリの資源状態を把握するうえで重要であるといえます.

 

写真:河芸漁港(三重県津市)沖でドローンにより撮影されたスナメリ(20215月,八木原風撮影).

 

論文:神田育子,古山歩,若林郁夫,若井嘉人,船坂徳子,吉岡基.2021.伊勢湾西岸における20112020年のスナメリのストランディングに関する記録.三重大学大学院生物資源学研究科紀要,47: 13-23.