本センターに所属するメンバーが発表した,海棲哺乳類に関する学術論文の内容を一部紹介します.


 本センターの准教授である森阪匡通らによる共著論文が, 欧州の学術誌Aquatic Mammalsに掲載されました!

 

 Redefinition and sexual difference of contact calls in belugas (Delphinapterus leucas)

「ベルーガのコンタクトコールの再定義と性差」

  

ベルーガは,光の届かない海洋環境で,群れの仲間の存在と位置を確かめるために,お互いに「声」の掛け合い(鳴き交わし)をしていると考えられています.このコミュニケーションのための音は,「コンタクトコール」と呼ばれており,鳥や他の哺乳類にも広く見られる音のタイプです.ベルーガのコンタクトコールについては,これまでにカナダやロシア,そして我々の研究グループが,調べてきました.しかし,ベルーガは海のカナリアと呼ばれるほど,多彩な音を出し,そのそれぞれの音の分類方法は曖昧になっていました.そこで本研究では,しまね海洋館アクアスで飼育されているベルーガ(写真)7頭のコンタクトコールの音声パターンや雌雄差を調べ,その結果と先行研究を総括し,Creaking Call(ギー音)と名付け,再定義しました.

 

このギー音は,ドアのきしむような音で,個体それぞれに特有の鳴音パターンがありました.赤ちゃんの頃にはみられないため,発音器官の発達または音声学習によって獲得すると考えられます.他個体との鳴き交わしに使われ,ある個体がギー音を発したら,1秒以内に誰かがそれに返事をするというルールがあり,もし1秒以内に返事をもらえなかったら,もう一度自分でギー音を出すことも多くありました.

 

さらに,メスや未成熟オスはその個体特有のギー音しか出しませんが,成熟オスのギー音にはいくつかの共有されるレパートリーがあることが明らかになりました.このような様々なタイプのギー音を何のために出しているのかはまだ分かりませんが,ベルーガのオスの社会に関係していると考えられます.オスは成熟すると,生まれ育ったグループを出てオス同士で「同盟」を作ります.このときにオスのギー音が多様になるのかもしれません.今後はそのような社会関係とギー音の使い方の関係を調べていきたいと考えています.

 

写真撮影場所:しまね海洋館アクアス

 

論文:Mishima Y, Morisaka T, Mishima Y, Sunada T, and Miyamoto  Y (2018)  Redefinition and sexual difference of contact calls in belugas (Delphinapterus leucas). Aquatic Mammals, 44: 538-554. 

 


 本センターの助教である船坂徳子らによる共著論文が,日本の学術誌Journal of Veterinary Medical Scienceに掲載されました!

 

 Long-term monitoring of circulating progesterone and its relationship to peripheral white blood cells in female false killer whales Pseudorca crassidens.

「メスのオキゴンドウにおける血中プロゲステロン濃度と白血球数の長期モニタリング」

  

 

「妊娠期間は約280日,約34kgで生まれる.新生児はサル目の中では極めて未熟な状態で生まれる.目もよく見えず,座ることも難しい(サルの仲間の多くは生まれてすぐに母親にしがみつく能力がある).約2年で歩いたり言葉を使ったりできるようになり,1015歳で性的に成熟する.体の成長はこの頃に完成する.月経周期(性周期)は約28日であり,女性では50歳くらいに繁殖を停止する.平均寿命は8085歳程度である.」

 

これは,ある生物の『生活史』を述べたものです.そう,ヒトです.イルカやクジラの仲間は世界中に約90種が生息していますが,この生活史が明らかになっている種は多くありません.今回の研究では,世界中の暖かい海に広く生息しているオキゴンドウを対象に,繁殖様式の一部を調べました.オキゴンドウは日本の水族館でも飼育されていて,大きな身体でのダイナミックな動きから,イルカショーでも人気があります.しかし,繁殖に関してはあまり多くのことがわかっていませんでした.

 

本研究では,特にメスの繁殖生理を明らかにすることに着目し,約10年という長い期間に渡り水族館で採取された3頭の血液試料を使って,女性ホルモンの1種であり卵巣活動の指標となるプロゲステロン濃度を測定しました.その結果,メスの性周期は約40日,性成熟年齢は914才までのいずれかの年齢,妊娠期間は約400日であることがわかりました.また,性周期中や妊娠中には,健康診断での血液検査項目の1つである白血球数が変動していることもわかりました.

 

ヒトとオキゴンドウでは性周期や妊娠期間が異なっているように,イルカの仲間でも種によって,これらの長さが異なります.それがなぜなのかは,まだ明らかになっていませんが,様々な種の周期を調べて繁殖様式を比較していくことで,この点が明らかになってくるかもしれません.

 

写真撮影場所:国営沖縄記念公園(海洋博公園)

 

論文:Funasaka, N., Yoshioka, M., Ueda, K., Koga, H., Yanagisawa, M., Koga, S. and Tokutake, K. 2018. Long-term monitoring of circulating progesterone and its relationship to peripheral white blood cells in female false killer whales Pseudorca crassidens. Journal of Veterinary Medical Science, 80(9): 1431-1437.

 

 


 本センターの准教授である森阪匡通らによる共著論文が, 英国の学術誌Mammal Reviewに掲載されました!

 

 Foraging and feeding ecology of Platanista: an integrative review

「ガンジスカワイルカの摂餌生態に関する統合的レビュー」

 

視覚の使いにくい場所に棲息する動物は,それを補てんするために多用な感覚を用いる,あるいは進化させます.ヒマラヤ山脈からのたくさんの細かな土砂を携え流れてくるガンジス川は濁っており,視覚を使うことができないため,そこに棲息するガンジスカワイルカの視覚は退化しています.それでは,ガンジスカワイルカはどんな感覚器官を用いて,どのように餌を見つけているのでしょうか?

 様々な文献調査と予備的な観察,音の研究から,彼らはエサおよび自身の位置(水面,中層,水底)によって, 感覚器官を変えてエサを探して捕らえていると私たちは結論づけました.水面近くでは,遊泳性の魚たちが出す音を聞いており,中層では,だいたい20m先のエサを音(エコーロケーション)によって探し,水底では長い口の横にある電気受容器と思われるものを用いて,餌生物の出す微弱な電気信号をとらえていると考えています.ガンジスカワイルカは,体を横にして泳ぎ続けるサイドスイムという独特な泳ぎ方をすることがわかっています.また,餌のまわりをくるっと回りながら採餌するなど,その採餌方法も独特です.様々な感覚器官を用い,さらに独自の遊泳や採餌方法を生み出すことで,視覚の使えない環境に適応してきたのではないかと考えられます.

 

エコーロケーション:とても短い音を出して,その音が前方の物体に当たりはねかえってきた音(エコー)を聞くことで,その物体までの距離や材質といった情報を得る能力のこと.音でまわりを探索する能力といえる.陸上の哺乳類ではコウモリもこの能力をもつ.

 

論文:Kelkar N, Dey S, Deshpande K, Choudhary SK, Dey S, Morisaka T (2018) Foraging and feeding ecology of Plantanista: an integrative review. Mammal Review 48: 194-208.

 


 

本センターの助教である船坂徳子らによる共著論文が,日本の学術誌Journal of Reproduction and Developmentに掲載されました!

  

 Seasonal changes in circulating gonadal steroid levels and physiological evidence for the presence of intrinsic circannual reproductive cycles in captive finless porpoises Neophocaena asiaeorientalis from the western Inland Sea, Japan.

瀬戸内海西方海域における飼育下スナメリの血中性ステロイド濃度の季節変化と内因性の概年リズムの確認

 

 

繁殖はすべての動物に共通に起こる現象です.動物たちは,それぞれに長い年月をかけて環境に適応し,種特有の繁殖生態を進化させてきました,それは,イルカの仲間においても同様です.私たちは生理学的なアプローチから,イルカたちが持つ繁殖生態の特徴を調べてきました.

 

 今回の研究では,日本を含む東アジア沿岸に生息するスナメリについて,2つの別の施設で飼育されている個体の血液中の性ステロイド(男性ホルモンの1種であるテストステロンと女性ホルモンの1種であるプロゲステロン)の濃度を測定しました.その結果,日長の季節変化がある施設で飼育されている雌雄2頭のスナメリの血中性ステロイド濃度は毎年同じ時期に上昇し,繁殖活動が春から秋に行われていることがわかりました.しかし,日長の季節変化がない施設で飼育されている雄1頭では,血中テストステロン濃度は毎年同じ時期に上昇せず,正確に9ヶ月周期でフリーランしていました.その後,この施設の日長(照明点灯時間)に人工的な季節変化をつけたところ,この個体の血中テストステロン濃度は毎年同じ時期(春)に上昇するようになりました.

 

本研究は,イルカの仲間がフリーラン周期を持つことを示した世界ではじめての論文です.人間では,環境変化がない状況に置かれると約25時間のフリーラン周期で活動するようになることは有名ですが,イルカにおいても同じようなフリーラン周期があり,外部環境の変化に体内の生理状態を合わせるためには日長の季節変化が重要であることがわかりました.これは,野生下で生き抜くための繁殖戦略の1つであると考えられ,水族館での繁殖推進にも役立つ情報になると考えられます.

 

※フリーラン:環境変化などの影響から逃れて,その生物に固有の周期でリズムが現れている状態.自由継続とも言われる.


写真撮影場所:海響館

 

論文:Funasaka, N., Yoshioka, M., Ishibashi, T., Tatsukawa, T., Shindo, H., Takada, K., Nakamura, M., Iwata, T., Fujimaru, K. and Tanaka, T. 2018.

Seasonal changes in circulating gonadal steroid levels and physiological evidence for the presence of intrinsic circannual reproductive cycles in captive finless porpoises Neophocaena asiaeorientalis from the western Inland Sea, Japan. Journal of Reproduction and Development, 64(2): 145-152.